第35号 佐々岡 富子
白と黒の世界の奥深さ ”南画にひかれて”

 大阪市此花区にある住友化学工場の形状の面白さに魅力を感じ、2か月ほどかけて制作した作品が「工場U」(120号=194センチ×130センチ)です。何度も足を運んでスケッチをし、写真も撮ります。それらを参考にしてまず10号ぐらいで描き、それを模造紙に縦横同じ比率で120号に拡大して下図を作ります。 次にやっと本紙(和紙)にかかり、墨の濃淡やぼかしなどの筆遣いを駆使して仕上げていきます。
 南画(水墨画)です。工場のような建物は柱や壁が曲がると不安定になります。絵もそれと同じで、線がゆがまないように描くのに苦心しました。南画を始めて30年になります。今年の第六十五回日本南画院展で「日本南画院賞(橋村賞)」をいただきましたが、これまで納得のいく作品ができたことはありません。難しいです。
 子供の頃、姉がスケッチに出掛ける折について行った記憶があります。それが絵を描くことが好きになったきっかけでしょうか。中学生の頃、小豆沢禮先生に出会い、油絵のご指導をいただき、本格的に描くようになりました。ところが、なぜか深く進むことなく、社会人になると、絵画から書道へと趣味は変わりました。
 書を20年ほど続けたころ、また絵心が動きました。そして選んだのが、書と共通する墨(筆)と和紙で表現する南画でした。五十過ぎのことでした。
 南画の場合、最初は四君子しくんし(蘭・竹・菊・梅)の花卉かきを題材にして運筆の技術と精神を学びます。基本ですね。精神性をより重視します。筆を運びます時、精神状態がてきめん線に表れます。心を落ち着かせ集中しないと美しい線は引けません。 現在、公益社団法人「日本南画院」に所属し、堺市にありますNPO法人「いづみ健老大学」で私の師、月居和子先生とご一緒に講師として活動していますが、やはり基本の運筆の大切さを痛感します。
 東洋美術の精粋と言われる南画は、墨で色彩をも表現するという、色を超越した白黒の世界であり、墨と和紙と水との融合で成り立ちます。筆を駆使し墨の濃淡、にじみ、ぼかし、かすれで描きますが、 技法のみを追求するだけでは完成しません。集中力、心が備わらなければちゃんとした線一つ描けないのです。風景や建物を主な題材として「工場U」のような大作は年に 1作、20号くらいの作品は年に3,4作のぺースで制作しています。このほか、日常的に色紙に描いています。
 義父母、夫、愛犬と介護し、送りました今、時間に余裕が出来ましたので、5年のブランクがありましたが、弓道を復活しました。精神修養になれば幸いですが……。南画も、弓道もお道は厳しいです。

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