第27号 小西 美佐子(川方南)
ふるさとの山に登って

 「あなたの心にある故郷の景色は何処ですか?」
 私の場合、まず思い浮かぶのは子供の頃に飼い犬を連れてよく散歩に行った「夕日が沈む西の海」です。そして、もう一つは大阪から島根に帰る度、北山山系が遠くに姿を現し、その姿が子供の頃から馴染んだ親しみのある形に見えてくると思わず「ただいま〜!」と心が和んでくる「弥山さん」です。
 昨年の会報の表紙「奉納山からの海岸線」を見て以来、あの光景がとても心に残り、大社の街並みや、大好きな西の海、三瓶山などを、子供の頃に何度も登った「弥山さん」の山頂からもう一度見てみたいと思うようになりました。
 そんな時、今でも近隣の山に登る実家の父(79歳)から、「弥山さんの登山道、松枯れの樹木を除けてごさいて登りやすくなっちょううぞ」と聞き、一念発起!この春大学を卒業したばかりの娘と里帰りし、3月20日父、私、娘の親子3代で念願の「弥山さん」に登ってきました。
 当日は生憎、雨上がりで足元も悪い曇り空でしたが、父が勧める二本杖のお蔭で腰痛持ちの私でも何とか無事に登ることができました。「杖なんか要らんよ」といってた娘は、翌日筋肉痛に苦しんでいました。(笑)
 子供の頃は生い茂る木々の中を登り、時々開けた場所に出ると海を眺めたり、荒木小学校や大社駅、流下橋の位置から我が家を探したりしました。 今回は遮る物がなく何処からでも景色が見渡せ、もしかして登っている私達の姿が下から見えるんじゃないかと思うほどでした。 登山道の脇に除けた大きな松の余りの多さに唖然としましたが、山頂近くで自生したと思われる小さな松の木が数本育ちつつあるのを見つけ、救われる思いがしました。「大っきんなってね〜!」
 頂上に着くと、傷んでいたものの当時と同じ祠がありその横には「大社中13期13日会50歳記念 平成6年10月」と彫られた小さな石碑が立っていました。 私も50歳になった時には歩いて来た道とこれから歩む道と想い感慨深かったけれど、こうして形に残そうと思った行動力のある先輩方がいらしたんですね!
 念願の景色を眺めながら、改めて自分を育んでくれたこの故郷の事を思いました。近畿・大社会に集われている方々も皆この町に縁があり、今もこの町に親や兄弟が暮らしておられたり、 或いは静かに土の下で眠られていたりするのだろう、また昨年の大社会で初めてお目にかかった千家国麿さんは出雲大社の伝統を継承する大切な役目を担われる方、 出雲の空を飛び、羽を休めに来る野鳥たちが国麿さんと典子さんお二人を結びつけるきっかけなったことを思い出し、自然そのものが神様の意志なのではと、とても不思議な気持ちのなりました。
 今回、天候が良ければ見える大山や三瓶山は全く見えませんでしたが、会報の表紙がきっかけとなり故郷の山に家族と登ることが出来て、心に残る里帰りになりました。 そしてまた、何故大社町に縁のある人たちは世代を超えて共感し合えるのか、そのわけを理解できた気がしました。

  ふるさとの 山に登りて 想うことあり
  ふるさとの山は ありがたきかな  〜啄木の歌を替えて〜

リターン