桜本 雅驥 (幹事長補佐 駅通出身)
まほろば

 昭和二十年三月。五歳。空襲を避けて生まれ故郷の大阪を離れ、父の郷里荒木村へ辿り着いて間もなく終戦。大阪生れの身には荒木村の生活は、かなり辛かったが、 不快な記憶は少ない。貧しいけれど楽しいことも多かった十三年間を過ごして大社を後にした。
 若い頃は、自分を大社の人間とは考えなかった。島根は父母の故郷であって、自分の故郷は大阪という意識が強かった。
 だがその考えは年と共に変わりつつある。いつの間にか、自分は大社の人間だと自然に思うようになった。年に一、二回墓参りに帰り、美しい大社の風景に接すると「まほろば」に育った喜びと感動が湧いてくるのを覚える。
 年のせいばかりではないようだ。父祖の地への回帰本能のようなものが頭をもたげてきたのかも知れない。今のところ老後を大社で過ごすとか、父母と同じ墓で眠りたいとかの気は無いが、自分が大社の人間という想いはいつ迄も持ち続けたい。

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